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2020年度日本ロシア文学会大賞 受賞のことば


中澤 敦夫 氏(富山大学名誉教授)


わたしは、中世文献学(テキスト学)を中心に、中世ロシアの文学、歴史、文化を学び、研究してきました。学部課程でロシア語を学んだのですが、研究者を志したのが30歳と遅かったこともあり、あまり人の取り組んでいない分野を研究してみようと選んだのが中世文学でした。その後、よき先生方と出会い、同じ分野の研究を志す仲間たちとの交流に恵まれ学習を積んできたのですが、幸運だったのは、ペレストロイカを切掛けとした日ソ交流活性化の恩恵を受けて、1989年に第1期ソ連政府奨学生としてレニングラード大学に留学できたことでした。研究の本場で学ぶ機会を得て、さらに、ソ連崩壊後の1996年にはペテルブルグの「ロシア文学研究所(プーシキン館)」で実習生として過ごし、第一線の研究者たちを目の当たりにすることで、「研究する人生」について実感をもって学ぶことができました。

研究面では、2000年にペテルブルグで博士候補の学位を得て、その成果をロシアで刊行しました。2017年には、その間の研究、翻訳、学術交流の活動に対して、ペテルブルグ市が主催する「ドミートリイ・リハチョフ賞」を受賞しました。日本における活動の成果がこのようなかたちで認められたことは、大変ありがたいと思っています。

昨年、長年勤務した富山大学を定年退職しましたが、大学の所属から離れて、今感じているのは、「研究者コミュニティ」(научное сообщество)の大切さということです。人を研究に向けさせる動機には、もちろん、真理の究明への情熱や、個人的な好み・好奇心もありますが、研究をコンスタントに動機づけ、励ましてくれるのは、この「コミュニティ」の存在であり、そこからの承認ではないかと思います。自身の経験を振り返っても、研究を方向づけ、刺激を与えてくれたのは、いろいろな機会における師匠たち、仲間たち、後進たちとの交流でした。様々な「コミュニティ」の中に自分の場があるという実感が、研究の支えとなっている面は大きいと思います。

その意味で、日本のロシア文学・語学の分野で、最も大きな研究者コミュニティである「日本ロシア文学会」から「日本ロシア文学会大賞」というかたちで評価をいただいたことは大きな励みであり、心より感謝いたします。

最後に、あたりまえの学会活動さえ難しいこの時期にあって、日本の研究者のための「コミュニティ」の維持・発展のために力を尽くされている、三谷会長をはじめ日本ロシア文学会の執行部の皆様に、心より敬意を表したいと思います。

2020年9月4日 中澤敦夫
 
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