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日本ロシア文学事務局
 

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日本ロシア文学会賞 受賞のことば

 

2021年度 日本ロシア文学会賞

論文の部 受賞者(1名) 

安野 直 (やすの すなお)氏
【論文】「ベストセラー現象を読み解く――20世紀初頭のロシアにおける女性向け大衆小説とメディア」(『ロシア語ロシア文学研究』第52号、25-44頁)
 プロフィール(2021年11月現在)
早稲田大学文学部卒業、早稲田大学文学研究科修士課程修了。2016年、同博士後期課程に進学。2021年から早稲田大学文学学術院(文化構想学部・現代人間論系)助手。専門は20世紀初頭の大衆小説を中心としたロシア文学、ロシアのセクシュアル・マイノリティにかんする研究。
受賞のことば
この度は、栄誉ある賞に選んでいただき大変嬉しく思います。審査の労をとっていただいた委員の先生方、また論文執筆のさいにご助言いただきました皆様には、この場をお借りして感謝申し上げます。今回、私が論文で主題とした、20世紀初頭の女性向け大衆小説は、当時ベストセラーとなり熱狂を呼んだにもかかわらず、これまでの研究史のなかでも、あまり顧みられることがありませんでした。そこで本論文では、そのベストセラー化の要因を当時の女性解放運動やジェンダーをめぐる状況に留意しつつ、雑誌メディアを通して明らかにすることを目指しました。今後は、さらなる雑誌記事の精査や他の西欧諸国との比較といった、より綿密な調査が求められるかと思います。

今回の受賞を励みとし、とはいえ気負いすぎずに、マイペースに研究をすすめていければと考えております。


著書の部 受賞者
(1名)

松下 隆志 (まつした たかし)氏
【著書】『ナショナルな欲望のゆくえ――ソ連後のロシア文学を読み解く』(共和国、2020年、305頁)
 プロフィール(2021年11月現在)
2008年北海道大学文学部人文科学科言語・文学コース卒業後、同大学院文学研究科歴史地域文化学専攻スラブ社会文化論修士課程入学。2010年修士課程修了、同博士後期課程進学。2015年博士号取得(学術)。京都大学非常勤講師、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター非常勤研究員を経て、2020年10月より岩手大学人文社会科学部准教授。専門は現代ロシア文学。
受賞のことば
この度は拙著に対してロシア文学会賞を授与していただき誠にありがとうございます。賞の選考に携わられたすべての先生方に厚く御礼申し上げます。また、拙著のベースとなった博士論文の執筆に当たっては、指導教官の望月哲男先生をはじめとする数多くの先生方に大変お世話になりました。この場を借りて改めて深謝いたします。

拙著はただ現代ロシアの文学状況を概観するのではなく、90年代に流行したポストモダニズムと呼ばれる文芸潮流のプリズムを通して、ソ連崩壊後のロシアにおける文学プロセスを読み解こうという試みでした。無論それは現代文学すべてをカバーするものではありませんが、今や膨大に存在する作家の作品をただ孤立した点として捉えるのではなく、相互の関わりにおいて考察することは、とくにわれわれのような外国の読者にとっては意義のあることだと思います。

現代文学の研究はアカデミズムにおいて決してメジャーな分野ではありません。したがいまして、今回受賞させていただけたことはまさに望外の喜びでした。これに満足することなく、日本のロシア文学研究の発展に少しでも貢献できますよう、これからもよりいっそう精進して参ります。


 

2020年度 日本ロシア文学会賞

著書の部 受賞者(1名)  講評はこちら

高橋 知之 (たかはし ともゆき)氏
【著作】『ロシア近代文学の青春:反省と直接性のあいだで』(東京大学出版会、2019年、388頁)
 プロフィール(2021年11月現在)
2018年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京大学大学院人文社会系研究科助教を経て、現在、千葉大学大学院人文科学研究院助教。専門は19世紀ロシア文学、比較文学。
受賞のことば
この度は栄えある賞を賜り光栄に存じます。

本書の構想の発端は、思い返せば、「ペトラシェフスキー・サークルの面々を主人公とする青春群像劇を書こう」という閃きにあったようです。そうしたナイーヴな夢想を、学問的な公共性をもつ作品へと結実させていく過程は、私自身にとっても思いがけない道筋をたどりました。いまとなっては愛おしい、かけがえのない時間の所産を、こうして評価していただいたことは望外の喜びです。

拙著を書き進めていくなかで、私はある問いにとりつかれるようになりました。すなわち、「小説は、不確実で偶然的な人生を真に表現しうるのか」という問いです。この観点から十九世紀ロシア文学を読み直したとき、作家たちの新たな相貌と隠れた連関が浮かび上がってくるのではないか。こうした予感はさらなる連想を誘い、いささか飛躍するようですが、幾人かの日本の作家たち――横光利一、久生十蘭ら――を、私は強く意識するようになりました。この連想がそれほど突飛とも思われないのは、1930年代の日本において「偶然」が一大争点となり、横光がまさにこの観点からドストエフスキーに応答していたと考えられるからです。

私はいま、日露のさまざまな作家たちが同じ土俵に並び立つ文学論を夢見ています。相も変わらぬ青くさい夢想を抱えつつ、次なる研究へとむけて、ゆっくりと確かに歩んでいきたいと思います。
 

2019年度 日本ロシア文学会賞

 論文の部 受賞者(2名)  講評はこちら

北井 聡子(きたい さとこ)氏
【論文】「ファルスを持つ女:長編小説『セメント』のダーシャについて」(『ロシア語ロシア文学研究』第50号所収)
 プロフィール(2019年9月現在)
津田塾大学国際関係学科卒業後、会社勤務を経て、東京大学総合文化研究科修士課程へ進学。2007年同博士課程進学、2018年博士号取得(学術)、日露青年交流センター日本人若手研究者等フェロー、東京大学教養学部、早稲田大学文化構想学部非常勤などを経て、2019年4月より大阪大学言語文化研究科講師。
受賞のことば
この度は、拙論に学会賞を授与していただき、誠に光栄に存じます。編集、査読、選考に携わった全ての先生方に感謝申し上げます。また、そもそもこの論文は、博士論文の一部として執筆したものです。大学院在籍時の指導教員の安岡治子先生をはじめ、博士論文の審査に当たられた先生方にも改めて厚くお礼申しあげます。

F・グラトコフ作の長編小説『セメント』は、社会主義リアリズムの規範としてソ連時代長らく参照された記念碑的作品です。荒廃した工場の再建という主要なプロットに加え、この作品のもう一つの重要なテーマは、共産主義世界における新しい愛や家族関係の模索です。しかし、ヒロイン、ダーシャの乱交的なセクシュアリティや、子殺しに代表される家族関係は、多くの矛盾に満ちたものです。これら非合理とも思われる登場人物たちのジェンダーとセクシュアリティをいかにして論理的に捉えることができるか―この問いを模索する中でたどり着いたのが、精神分析の概念である「ファリックマザー幻想」を用いて分析することでした。精神分析的なアプローチをどう評価するか判断が難しかったかもしれませんし、また私にとっても挑戦でしたが、このような形で評価していただけたことを嬉しく存じます。

栄誉ある賞を賜ったことを励みに、今後もロシア文化や文学におけるジェンダー/セクシュアリティというテーマを一層追求していくとともに、日本のロシア人文・社会科学全体の発展に微力ながら貢献できれば幸いです。

青山 忠申(あおやま ただのぶ)氏
【論文】「『アヴァクム自伝』自筆稿のアクセントに見られる規範と逸脱」(『ロシア語ロシア文学研究』第50号所収)
 プロフィール(2019年9月現在)
神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科を卒業後、2015年に京都大学大学院文学研究科スラブ語学スラブ文学専修修士課程に入学。現在は同博士後期課程在学中。専門は17世紀を中心とするロシア文献学、ロシア語アクセント論。
受賞のことば
この度は日本ロシア文学会賞にご選出いただき誠にありがとうございます。このような名誉ある賞を賜りましたことは身に余る光栄に存じますとともに、編集や学会賞の選考に携わられた委員の皆様、査読をしてくださった先生方、日ごろご指導いただいております先生方には感謝の念を禁じ得ません。

拙論では17世紀の古儀式派文献『アヴァクム自伝』を題材として、作者の意図とアクセントとの関係について検討しました。この題材選択は、私自身が中世ロシア文学の奥深さや豊かさを知ることにもつながりました。アクセント研究の分野ではこれまで個別文献の性格とアクセントの諸相があまり結び付けられずにいましたが、『自伝』に頻出する体系から外れたアクセント例のすべてがアヴァクムの生き生きとした巧みな筆致と無関係だとは思われませんでした。

この分析の方法論はまだ確立されたとは言えず、粗削りな部分の残る論文となったことが悔やまれますが、それにもかかわらず今回学会賞というかたちで評価していただけたことを励みに、より一層研究に邁進して参りたいと思います。今後ともご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
 

2018年度 日本ロシア文学会賞

 論文の部 受賞者(1名)

生熊 源一(いくま げんいち)氏
【論文】「息の転換ー「集団行為」における対物関係ー」(『ロシア語ロシア文学研究』第49号、2017年、1頁-27頁)
 プロフィール(2018年8月現在)
2013年、早稲田大学文学部ロシア語ロシア文学コース卒業。同年、北海道大学大学院文学研究科スラブ社会文化論専修修士課程に進学。2015年から同博士後期課程在学中。専門はモスクワ・コンセプチュアリズムを中心とするソ連非公式芸術。
受賞のことば
このたびは拙論に日本ロシア文学会賞を頂き、大変光栄です。編集、査読、選考に関わって頂いたすべての方に厚く御礼を申し上げるとともに、これまでご指導下さった先生方や先輩方、そして友人たちに心から感謝申し上げます。

私見では、コンセプチュアリズムはロシア・ソ連文化研究の主流とはいえず、かといって今では未開拓地でもないという微妙な立ち位置にあります。しかしながら、かつて盛んに研究されたアヴァンギャルドのように、コンセプチュアリズムも多大な労力を費やすに値する研究領域ではないでしょうか。その探求の第一歩である「息の転換」を評価して頂けたことは、まさしく望外の喜びです。

今回の受賞が、これから研究を続けるうえで大きな支えになることは間違いありません。この経験を活かし、より一層精進して参ります。引き続きご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
 

2017年度 日本ロシア文学会賞

 論文の部 受賞者(2名)

高橋 知之(たかはし ともゆき)氏
【論文】「反省と漂泊:アポロン・グリゴーリエフの初期散文作品について」(『ロシア語ロシア文学研究』第48号)
 プロフィール(2017年7月現在)
東京大学文学部言語文化学科現代文芸論専修課程を卒業後、2009年に同大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻現代文芸論専門分野修士課程に入学。2011年に修士課程を修了し、博士課程に進学、2017年に単位取得満期退学。現在は東京理科大学理工学部非常勤講師。専門は、1840年代を中心とする19世紀ロシア文学。
受賞のことば
この度は名誉ある賞を賜り、望外の幸せに存じます。審査に携われた先生方、査読してくださった先生方、日頃よりご指導いただいております先生方、先輩方、そして勉強会や読書会で有意義な時間を共にしてきた友人たちに、心より御礼申し上げます。

1840年代のロシア文学史を捉え直すための手掛りとして、グリゴーリエフの存在に着目したのが、研究の出発点でした。本論文が描いたのは、既成の構図には収まらない、特異な思想的相に位置するグリゴーリエフの探求です。一方で執筆に際しては、本来の問題意識から逸れないよう、多少とも禁欲的になる必要もありました。論文の執筆は、グリゴーリエフが孕む様々な可能性を発見していく過程でもあったからです。たとえば、ポスト・ヘーゲル時代の思想という観点からみれば、キルケゴールとの親縁性を指摘することもできるでしょう。また、反省的自己意識の表現という観点からみれば、日本近代文学との比較も可能かもしれません。それらの可能性を究めていくことが私の今後果たすべき課題であり、そして、グリゴーリエフに対する責任でもあると思っています。

改めて、今回の受賞は私にとって大きな励みとなるものでした。私のグリゴーリエフ研究はまだ始まったばかりですが、研究を地道に発展させていくことが、感謝の気持ちを表すことだと思っております。今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

伊藤 愉(いとう まさる)氏
【論文】「現実を解剖せよ──討論劇『子供が欲しい』再考」(『メイエルホリドとブレヒトの演劇』玉川大学出版部,2016年,247頁−280頁)
 プロフィール(2017年7月現在)
早稲田大学商学部卒業後、一橋大学大学院言語社会研究科修士課程に入学。2009年同博士課程進学。現在、日本学術振興会特別研究員(大阪大学)。専門はロシア演劇史。
受賞のことば
この度は拙論「現実を解剖せよ──討論劇『子供が欲しい』再考」(キャサリン・ブリス・イートン『メイエルホリドとブレヒトの演劇』玉川大学出版部、所収)に学会賞を授与いただき、ありがとうございます。学会誌ではない媒体に掲載したものでありながら、賞をいただけることとなり、審査員の先生方に心より感謝申し上げるとともに、編訳という形で発表の機会を与えてくださった谷川道子先生および玉川大学出版部の方々に厚く御礼申し上げます。

拙論でとりあげたトレチヤコフの戯曲『子どもが欲しい』は、演出家メイエルホリドが上演を計画しつつも、舞台作品としては未完に終わったものです。ただ、その計画には、トレチヤコフおよびメイエルホリドとドイツ人演出家・劇作家ベルトルト・ブレヒトの親和性を読み取ることができます。それは、やや大上段に構えて言えば、社会において演劇を実践する意味を問う態度でした。そうした文脈において、同時代社会が直面している問題を「素材」として提示しようとしたトレチヤコフとメイエルホリドの実践を、上演分析という形にこだわらずに、文化史に位置づけながら論を展開することを試みました。演劇史研究は、実際の上演を確認することができず、まして『子どもが欲しい』は未上演という制約もあり、やや強引に論を展開したところもありましたが、今回このような形で評価してくださり、大変ありがたく思っております。今後とも勉強を重ね、日本のロシア文化研究に寄与していきたいと思っております。ありがとうございました。
 

2016年度日本ロシア文学会賞


(著書の部)
 大野 斉子 氏
 プロフィール(2016年9月現在)
 東京大学文学部言語文化学科スラヴ語スラヴ文学専修課程卒業後、1998年東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻スラヴ語スラヴ文学専門分野修士課程に入学、2000年同博士課程進学。2006年博士(文学)取得。青山学院女子短期大学非常勤講師、東京大学非常勤講師などを経て、現在は宇都宮大学国際学部専任講師。専門は19世紀ロシア文学、近現代ロシア文化。
 受賞の言葉
日本ロシア文学会賞をいただけましたこと、心から嬉しく、光栄に存じます。多くの優れた著作の中から選考して下さいました委員の先生方、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。執筆と研究にあたっては、多くの先生方に専門的なご助言を賜り、友人たちからは励ましの言葉をいただきました。群像社の方は企画段階から長い期間を支えてくださいました。お一人おひとりの温かいお言葉やご助力が、研究者として成長させてくれたと思います。この場をお借りして、みなさまに心からの感謝を申し上げます。

東京大学の研究室に所蔵されていた一際美しい香水の本が、この研究の出発点でした。調べるほどに広がっていく香りの世界には、底なしの深さがありました。拙著ではロシアの香水文化の再発見を目指すとともに、本の舞台となる帝政期のロシアで、香りと響きあった文学、芸術、生活、産業などあらゆるものを手掛かりにして、何とか香りの魅力や謎に迫ろうと取り組みました。

受賞は大きな励みになると同時に、ロシア文学、文化の研究者としての役割を改めて考える機会となりました。日本ロシア文学会で積み重ねられた研究の営為に連なり、ロシアの人文諸学の発展に貢献できるよう、これから一層、力を尽くしていきたいと思います。

(論文の部)
 竹内 ナターシャ 氏
 プロフィール(2016年9月現在)
2011年、早稲田大学文学部ロシア語ロシア文学コース卒業。同年、文学研究科ロシア語ロシア文化コース修士課程に入学。2014年修士課程を修了し、現在博士後期課程に在籍中。専門はフョードル・ソログープの作品をはじめとするシンボリズム文学や演劇。
 受賞の言葉
今回は、このような名誉ある賞を賜る運びとなり、誠に光栄に存じます。まず、研究者としてまだまだ未熟な私が論文を執筆するに当たり、親身になってアドバイスをくださった先生方とゼミの皆さま、そして査読に当たられた皆さまに心からお礼を申し上げます。

受賞のお知らせを頂いた時には、ただただ驚くばかりでした。ソログープは詩人、 作家としては日本のロシア文学研究者の中では知られているといえますが、その演劇に対する熱心さにも関わらず演劇というテーマと結び付けられることは多くありませんでした。とはいえ、例えばメイエルホリドやエヴレイノフの演出について論じられる場合などは大抵『死の勝利』は言及されますし、国外ではソログープの戯曲というのは研究対象としてある程度確立しているといえます。確かに、劇作を含めたソログープの演劇との関わりはシンボリズム演劇の興隆と共に始まっており、その演劇理念も潮流の中にあって形作られているといって間違いではないのだと思います。ですが、当然ながら作家のある種の理念は特定の潮流の中で突然生まれるものではありえず、今回なら、ソログープの演劇理念の萌 芽を創作の黎明期に求めるのは自然なことでもありました。そして、初めて読んだ作品でもある『光と影』の、影絵芝居の観客となったような自分の感覚がきっかけとなったのも確かです。『光と影』という作品論としては論じ切れなかった部分もありますが、今回の試みを出発点として今後研究を進めていく上で、また改めて取り組むこともあるでしょう。

ともあれ、「ソログープ的」なテーマに迫るにしても、演劇理念に迫るにしても、一見すると遠回りの方法をとった拙論をこのように評価していただいたことを有難く存じると共に、非常に身が引き締まる思いです。今後も、皆さまのご指導に助けて頂きながら邁進していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
 

2015年度日本ロシア文学会賞


(著書の部)
 本田 晃子 氏
 プロフィール(2015年9月現在)
 早稲田大学教育学部教育学科教育学専攻卒業後、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学表象文化論分野修士課程に入学、2004年同博士課程進学。2011年博士(学術)取得。北海道大学スラブ研究センター非常勤研究員、日露青年交流センター日本人若手研究者フェローなどを経て、現在は早稲田大学高等研究所研究員(助教)。専門は20世紀ロシア建築、表象文化論。
 受賞の言葉
この度は学会の名を冠した名誉ある賞を拙著に授けていただき、どうもありがとうございます。審査に関わられた皆さま、本著の執筆にあたりご指導いただいた先生方、折に触れ励ましてくれた友人たち、そして本書を出版まで導いて下さった東大出版会の方がたに、改めて厚く御礼申し上げます。

ロシア構成主義の建築家イワン・レオニドフは、実作というべきものをほぼもたない、いわば紙上の建築家でした。しかも1930年代には、アヴァンギャルド批判の槍玉に挙げられ、その名は生きているうちから忘れ去られてしまいます。本書の中では、スターリン時代から続くこのような人為的な忘却に抗し、レオニドフ建築の可能性、そしてソ連邦という共同体の建設過程におけるアンビルトの建築の意味を、新しい視点から再提起することを試みました。

しかし5年間にわたる執筆の過程は、一次資料が絶対的に不足する中、どこまで作品解釈に踏み込むべきかという迷いの連続でした。それをこのような形で評価していただき、大変喜ばしく、またわずかながら安堵も感じております。今後もいわゆる建築史の範疇には入らない、イメージとしての建築や都市を論じていきたいと考えておりますので、何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

(論文の部)
 小俣 智史 氏
 プロフィール(2015年9月現在)
早稲田大学第一文学部哲学専修卒業後、2005年に早稲田大学大学院文学研究科ロシア文学専攻修士課程入学、2007年に同大学院ロシア語ロシア文化コース博士後期課程入学。2011年から2014年まで早稲田大学文学学術院助手。2014年より早稲田大学文学学術院非常勤講師。専門はニコライ・フョードロフをはじめとするロシア思想。
 受賞の言葉
このたびは拙論「フョードロフにおける合唱の概念」に日本ロシア文学会賞を頂き、大変光栄に存じます。査読や編集、学会賞選考に携わられた方々に厚く御礼申し上げるとともに、これまでご指導下さった先生方や貴重なアドバイスを下さった諸先輩方、ゼミやコースの仲間たちに深く感謝申し上げます。

フョードロフの名はロシア思想やロシア文学の分野において近年知られるようになってきましたが、その独特な思想を読み解きしかるべく位置づけるためには、思想形成の過程や思想的・文化的背景との関連など研究すべき課題がまだ残されていると思います。そこで本論文では当時の思想的文脈との接点として合唱の概念に着目することにより、フョードロフの思想を同時代のコンテクストと結びつけ、その思想形成の過程を明らかにするための新たな足掛かりを見出そうと試みました。

今回の受賞を励みとして、より広い視野をもちつつ新たな視角から研究を進めることができるようこれからも努めてゆきたいと思います。みなさまには今後ともご指導頂けますようよろしくお願い申し上げます。
 

2014年度日本ロシア文学会賞


著書の部
宮川 絹代 氏
 プロフィール(2014年8月現在)
青山学院大学国際政治経済学部卒業後、モスクワ大学に留学、文学部マギストラトゥーラ修了。帰国後、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程に入学し、2011年、同大学院博士課程修了。現在、東京大学教養学部非常勤講師、明治大学理工学部兼任講師。専門は20世紀ロシア文学、ロシア亡命文学。特に、ブーニン文学における知覚とイメージ。
受賞のことば
拙著に学会賞をいただくことになり、戸惑うほどのありがたさを噛み締めている。ブーニン文学に関する私のささやかな研究を手にとり、読んでくださった方々、学会賞選考委員会の方々に、心からお礼を申し上げたい。また、繰り返しの校正にお付き合いくださり、本にしてくださった水声社の方々、これまでさまざまな場面で支え、導いてくださった先生方や友人たち、そして家族にも、深く感謝している。

学部で国際政治学を専攻していた私は、半ば強引に文学に方向転換した。そのときも、今回のブーニン論を書き終えたあとも、文学は変らず果てしなく、その果てしなさに呆然としながらも、引きつけられ、吸い込まれて、逃れられない。けれどもまた、立ち向かうべく論じてみれば、そこから零れ落ちていくものを前に、今度は、己の研究の果敢なさがいたたまれない。

多くの課題を抱える私の研究にとって、今回の受賞は大きな励みになった。ここからまた、新たな気持ちで文学に向き合っていきたいと思っているので、みなさまには、どうか今後もご指導くださるよう、この場を借りてお願い申し上げたい。

論文の部
澤 直哉 氏
 プロフィール(2014年8月現在)
2010年に早稲田大学第一文学部ロシア語ロシア文化専修を卒業後、同大学院文学研究科ロシア語ロシア文化コース修士課程に入学。2012年から同博士後期課程在籍。専門はウラジーミル・ナボコフのロシア語期作品を中心とするロシア20世紀文学。
受賞のことば
このたびはウラジーミル・ナボコフの最初の長篇『マーシェンカ』読解の試みである拙論にこのような賞を賜り、心より光栄に存じます。査読と審査の労を取られた先生方に、厚くお礼申し上げます。

もとより「書物を読むことはできない」と語った作家の作品を読み解くこと自体が倒錯となりかねませんし、文学研究の方法がますます多様化するなかあくまで作品読解に留まるという態度は、きわめて素朴とも映ることでしょう。しかしかの「読むことはできない」という、読み手から「読むこと」を奪う放言から超越性を剥ぎ取り、書き手がそう語る必然に迫るためには、やはり作品という具体が不可欠でした。換言するならば、「読むことはできない」という手応えのなさを、この多様化と拡散の時代にあってなお「作品」から受け取ることのできる、かすかな手応えとして奪い返し得るのではないか。その無防備な希望だけが、この拙い試みを支えているように思います。

今後の研究においてはより一層の具体性による防備が求められますし、未だ決定的な手応えを欠くものの、その端緒であるこの試みが「読まれた」という確かな証を与えてくださったことに、重ねて深く感謝申し上げます。
 
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関東支部報 第40号(2022年)
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関西支部報 2020/2021 (No.2)
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