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(2020年8月28日)

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2019年度日本ロシア文学会大賞 受賞のことば

佐藤 昭裕 氏(京都大学名誉教授)


この度は、日本ロシア文学会大賞という特別な賞をいただくことになり、感謝の気持ちとともに、身の引き締まる思いでおります。貴重な時間を割いて審査に当たってくださった選考委員の先生方に、心よりお礼申し上げます。

大学に入り、大した考えもなく第2外国語としてロシア語を選びました。そのロシア語をもう少し続けたいと思って言語学科に進み、大学院の時には機会を得てポーランドに留学しました。そして今は、古ロシア語と古教会スラブ語を専門としています。

なかなか目標が決まらず、いろいろ迷った時期もあったのですが、40歳前後の頃、興味の中心が文献言語、中世の言葉に定まってきました。古いテクストを読んでいると、それだけで心が落ち着きます。言葉に直接手で触れているような気持ちになります。一つの文の意味が分かると嬉しくなります。たとえ数行分でも、前後の意味がつながり、その文脈で言わんとしていることが分かったときの喜び、達成感はさらに大きくなります。そんな安心感と楽しさを求めてのことだったのかもしれません。

こうして私の研究――勉強の対象となったのは、12世紀初めに成立した『過ぎし年月の物語』と呼ばれるキーエフ・ルーシで作られた最初の年代記、編年体の歴史書です。最初は特に具体的目標もなく、その本文を読み返すことから始めました。名詞と動詞、どちらを面白いと思うか、人によって興味の分かれるところではないかと思うのですが、私は動詞タイプです。動詞に注意してテクストを読んでいくうちに、年代記の語順が現代語と違うことに気づきました。具体的にどこがどう違うのか、どのようにしてその違いを記述し、説明できるのか、最初は雲をつかむような思いでした。しかし、その頃知ったテクスト言語学の基本的考えであるテクストのタイプという考えを利用して、その違いを記述できることに気づきました。

以来、ゆっくりとですが研究を続けてきました。ただ私は口頭発表が苦手です。要点を手短に話せず、くどくどと余計なことを言って、最後は時間がなくなります。それでつい口頭発表を避け、逃げ廻り、ロシア文学会の全国大会でも、一度も発表をしたことがありません。この賞をいただくことになったのは、せめて一度くらいは皆の前で、自分のやっていることを話していけよというお叱りか、励ましか、そんな皆様のお気持ちかと思います。そのお気持ちに感謝しつつ記念の話しをさせていただきます。
 
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