主催:早稲田大学文学部ロシア文学専修、日本ロシア文学会国際交流委員会
共催:日本学術振興会 人文・社会科学振興のためのプロジェクト・研究領域 V「伝統と越境」・研究グループ「越境と多文化」(代表:神戸大学・楯岡求美)
2005年11月19日(土)14:00から、早稲田大学文学部第二会議室において、ゲオルク・ヴィッテ氏の講演会がおこなわれました。ベルリン自由大学教授ヴィッテ氏は、日本学術振興会 人文・社会科学振興のためのプロジェクト・研究グループ「越境と多文化」の招待で来日したもので、ほかにも東京大学や神戸大学での講義、研究会などにも参加されました。
ヴィッテ氏は1952年生まれ、比較文学とスラヴ文学を専攻し、ロシア・アヴァンギャルド、現代ロシアの非公式文学、ナボコフなど幅広い分野で研究を行っており、今回が初来日です。
当初、早稲田での講演会では「カバコフのインスタレーションについて――「記憶」概念とのかかわり」という題で講演される予定でしたが、講演者のご都合により、「詩の可視性――メディア的実践としてのモスクワ・サミズダート」に変更されました。
講演はロシア語・通訳なしでなされ、また特殊な題材のためもあり、聴講者は研究者や大学院生などの専門家10人ほどでしたが、アットホームな雰囲気のなかでおこなわれました。
ヴィッテ氏は、50年代からのサミズダート文学や、その周辺にあったコンセプチュアリズムの実践と、そのメディア的特質との関係について、グラスコフ、クロピヴニツキイ、カバコフ、ルビンシテイン、モナストィルスキイなどをとりあげながら、豊富な資料をもとに論じられました。とくに、サミズダートのさまざまなオリジナル資料のスライドや、リヤノゾヴォにおけるパフォーマンスの貴重な映像資料など、わたしたちがはじめて目にするものが多数あり、それらの資料によって、サミズダートという特殊な状況におけるメディア的特性(手書き、タイプ、素材や流通にかんするさまざまな禁止と制限)を逆手に取った、サミズダート文化の戦略性と豊かさがあざやかに浮き彫りにされました。ヴィッテ氏の講演は、50年代以後のソヴィエト非公式文化の重要性・現代性や、それをメディアや身体性の研究という大きなコンテクストのなかで再評価する必要性をあらためて認識させるものとなりました。
講演後の討論では、ルビンシテインの創作の性格やロシア・アヴァンギャルドのメディア的特性と非公式サミズダート文化のそれとの比較、創作における感覚性の重視などのテーマをめぐって意見交換がなされました。
最後に、講演をご快諾いただいたヴィッテ教授にあらためて感謝の意を表するともに、早稲田での講演会をサポートしていただいた日本学術振興会 人文・社会科学振興のためのプロジェクト・研究グループ「越境と多文化」にお礼申し上げたいと思います。